~  “黄泉比良坂”  葦原中国(人間の住む世界)と黄泉の国(死者の世界)を繋ぐ黄泉路  ~ 
 
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
『あんたはホントにバカなんだから。』

これが私の母の口癖だったわ。
私がテストで低い点を取った時も
学校でケンカをした時も。
母はそう言って私を叱ったの。
私だってそれなりに頑張ってるつもりだったんだよ?
それに学校なんか行ってるよりもみんなで遊んでる方がずっと楽しいし
万引きだってみんなしてる。
だけど母は私の事を何も分かってくれなかった。
いつも決まって

『N子、あんたはバカだから・・・』

そう言って説教ばかり。
それは父親が事故で亡くなってから一層ヒドくなった。
私はそんな母親が大嫌いだったの。
だからいつも反発ばかりしてた。


そして高校三年生の冬。
私と母はクルマでお父さんの実家に行くことになったの。
その頃の私は仮免許を取れたばかりで、とにかく運転がしたくって。
“こんな夜中の運転は危ないでしょ。”
って言う母に無理やり
“子供扱いしないで!”
って運転を代わってもらって。
それで山道を走ってたら、急になにかが飛び出して来たの。


『わっ!』


私びっくりして慌ててハンドルを切ったら
目の前が真っ暗になって何だか凄い音がして・・・


気が付いたら私は真っ暗闇の中にいた。
どうやら崖から落ちたらしい。
森の中かどこかかしら?
何も見えない。
カラダ中が痛くって仕方無かった。
鼓膜がおかしくなったのか、耳の中がザァザァいってる。
動きたくてもカラダが動かなくって
怖くて涙が溢れ出してきた。
そしたらいきなり運転席のドアが
“バタン”
って開けられて、腕を
“ガツッ”
って掴まれた。

『きゃあ!』


そう心の中では叫んだつもりだったけど、体中の痛さで声が出なかった。
そしたら

『あんたはほんとバカなんだから・・・』

それは母の声だった。
母は私を運転席から引っ張り出したの。
そして

『こっちへいらっしゃい。』

ってぐいぐい私の腕を引っ張る。
私は“痛くって歩けないよ”って泣いてるのに
母の腕はお構いなしに私をどこかへ連れて行こうとするの。
周りは真っ暗で母の顔も見えない。
どっちに向かってるのかも全く分からない。
なのに母は迷うことなく私をどこかに連れて行こうとしている・・・。
私、すっごく怖くなって。
“お母さん、怒って私を殺そうとしてるんじゃないか”
本気でそう思ったわ。
でもそんな私の事なんかお構いなしに
母はぐいぐい私の手をひっぱりながら

『あんたはほんとバカなんだから・・・悪い事ばっかして・・』

『あんたはほんとに・・・』

ずっと私に言い続けてる。
私は怖くって怖くってただ泣き続けてた。
そしたら急に私を引っ張る手がピタっと止まった。
そして、母が言ったの。

『あんたはほんとバカなんだから・・・でも。』




『あんたが無事でほんとに良かった。』


その瞬間、目の前が急に明るくなった。
それはライトの明かりだった。

『大丈夫か!』

遠くから何人もの男性の声がして、いくつものライトが私を照らした。
何がなんだか分からなかった。
でも一つだけ分かったことがあった。
“助かったんだ。”
そう思った私はとっさに明かりに照らされた母の方を見たわ。

そしたらそこには・・・

・・・誰もいなかったの。
ついさっきまで私の手を引いてたハズの母の姿はそこには無かった。
私パニックになっちゃって
“お母さんは?お母さんはどこ?”
って叫んだんだけど、ついさっきまで私の手を引いてた母の姿はどこにも無かったの。

・・・母が見つかったのは3日後になってからだったわ。
崖から転落していびつな形に折れ曲がったクルマの中に挟まれてた。
即死だったんだって。
カラダはぐちゃぐちゃになってて、唯一運転席に向けて伸ばされた右手だけがその原型を留めてたの。

そして後になって分かった事はね。
あの日私を見つけてくれた男の人達は、警察の人たちで
110番通報の救助依頼があったからあの場所にいたんだって事。
そしてその通報の発信元が私の携帯からだったて事。
もちろん私はそんな電話なんかしていないよ。
でも確かに発信履歴は私の携帯電話からだったの。

それから、警察の人が言ってた事があるの。
私が見つかったのは府道のすぐ傍で
『クルマが落ちた場所からあの暗闇の中、ここまでこれたのは奇跡としか言いようがない。』
って。
そうじゃなきゃきっと助かっていなかっただろうって-。







彼女がこのお話を私にしてくれたのは、今からちょうど3年前の春。
N子ちゃんが25歳になった日の事でした。
看護師として立派に頑張ってる彼女が、早くから両親を亡くしたのに
真面目に生きてきたんだって事を初めて知った私はね。
心底大変だったんだろうなって思えて。
だから言ったんです。

『頑張ったんだね。エラいね。』

って。
そしたら、彼女
“ううん”
って首を振って。

それで、言ったんです。

『あたしバカだから。』

『しっかりしなきゃ、お母さんをまた心配させちゃうから。』

って。

目にいっぱい涙を溜めて
そう言ったんです。







スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。